【再確認】ベアフットシューズは魔法の靴ではない

やっぱりジョギングは最高である。2025年に入ってからというもの、捻挫をしたり、風邪をひいたりして、なかなか走ることができなかった。

1月中旬の早朝。遠くに見える可也山は、もやがかった空気でぼんやりとしており、その稜線から昇ったばかりの太陽は直視できるくらいの控えめな、しかし瑞々しい光を放って浮いている。

細かいストライドを意識して、テンポよく足を進める。決して急がず、どこまででも走り続けられるペースを意識する。冷気にこわばった体が、心拍数の上昇と共に次第にほぐれてくるのを感じる。体はポカポカと温まり、気持ちよく発汗しだす。私はこれと全く同じ体の状態を知っている。

それは露天風呂である。

頬に冷たい風を感じながら、暖かく循環する血液によって頭がふわふわとしてくる。ランニングをしない方にとっては、にわかに信じ難いと思うが、寒い季節のゆったりとしたペースのジョギングには冬の露天風呂に入ったのと同じような気持ち良さがあるのだ。

足元はいわゆるベアフットランニングシューズを履いている。ここ数年というもの、寒い季節の近所のジョギングはXero Shoesのプリオ一択である。この靴の1番の個性は、とにかくソールが薄いことにある。

Xero Shoes / Prio ブラック

もちろんクッションもなければ、プレートもないので、地面の感触がダイレクトに足に伝わってくる。靴が推進力や反発を産まない。頼りになるのは自らの骨格と筋肉だけである。体と重力とのやりとりを楽しみつつジョギングを続けていると、先日お店に来ていただいた婦人の話が頭をよぎった。

今思うとそれはベアフット系のシューズを販売する店の人間としての私に対する一種の抗議だったと思う。

某メーカーのベアフット系のシューズを履いて登山を繰り返していたところ、膝を悪くしてしまったとのことだった。他店で購入した商品だったとのことで、無責任に安堵しつつも決して他人事ではないと感じ詳しく話を聞いた。

頻繁に山に登る方で、膝の違和感を感じつつもつい続行してしまい、整骨院を訪れる頃には、症状が悪化して歩けない状態になってしまった。そして、数ヶ月の安静を余儀なくされてしまったとのことだった。

その話に私はショックを受けてしまった。

2012年ごろ、アメリカでビブラム社が集団訴訟を受けた。不正確な宣伝によってユーザーに怪我を負わせてしまったとの内容だったと記憶している。同社のビブラムファイブフィンガーズは、5本指の靴下にアウトソールが張り付いたようなデザインで、地面からの感覚をダイレクトに感じられるベアフットランニングシューズの先駆け的な存在である。その宣伝の内容は、薄いソールの靴を履けば、怪我の少ないフォームが自然と身に付くというもので、それを鵜呑みにして怪我をするユーザーが続出し集団訴訟に至ったということだった。

そのニュースの記憶があり、私の店でベアフット系のシューズを勧める時には、足が疲れるシューズであること、ランニングやハイキングで使用するには移行期間やトレーニングが必要なことを説明するようにしている。だから、あまり売れない。その代わりに、このシューズで走ることの楽しさを全力で説明する。おそらく購入していただい方は、私の稚拙でなりふり構わない説明に、わずかでもシンパシーを感じていただいた方だと思う。

しかし、2025年の今、十分に説明を受けずに購入することがあるのかという事と、自分の今までの説明が果たして十分であったかという事に思い当たり、ショックを受けたのだ。

怪我をしてしまった婦人の話から推測すると、おそらく移行期間なしに、ぶっつけ本番の山行を繰り返し、体に違和感がある状態で登山を続行してしまったのではないかと思われる。

ベアフット系のシューズをランニングやハイキングで導入を検討されている方に対して、下記の2点は今まで以上にしつこく強調して説明しようと心に決めた。

  • 習慣的にウォーキングやジョギングでトレーニングする
  • 体の声に耳を澄ませ、違和感を感じたら必ず休養する

この2点を守って続けていけば、体は必ず強くなり、長く走り、長く歩くことができるようになる。これはトレーニングにおいて最も基本的で重要かつ、周知の事実を念頭に置いている。「筋肉は使えば損傷し、回復する時により強くなる」ということ。そして「損傷が行き過ぎれば怪我をする」ということ。

芥屋海岸までのごく短いトレイル

ベアフットランニングシューズは決してレースで早く走るためのシューズでもなければ、怪我をしない魔法の靴でもない。走るために走る人、歩くために歩く人のシューズであり、自分の体の可能性を信じる人のためのシューズである。

そんなことを考えながらジョギングしていると、あっという間に時間は経過して、家の前に戻っていた。心地よい疲労感と今日の一番美しい時間を過ごせたという充実感につつまれた。ベアフットランニングシューズで走るのは気持ちが良い。この事を多くの人と共有しなければという、ほとんどの人にとってお節介な使命感を抱きつつ家に入った。

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